2025/11/29

[Column] 📖Part1 : The Unsung Star the Records Don't Mention: Why MVP Runner-Ups Make Baseball Fascinating / 第1話 : 記録」が語らない、もう一人の主役。MVP投票2位が野球を面白くする理由

「記録」が語らない、もう一人の主役。MVP投票2位が野球を面白くする理由
2025/11/29

「記録」が語らない、もう一人の主役。MVP投票2位が野球を面白くする理由

勝者の影に隠された、熱き魂の物語

スポーツの世界では、勝利者だけが永遠に記憶されるのが常だ。スポットライトを浴びるのは常に頂点に立った者であり、その輝かしい功績は歴史の金字塔として刻まれていく。しかし、私たちの心に深く、そして鮮やかに残り続けるのは、必ずしも勝者だけではないのかもしれない。

栄光の座を「あと一歩」で逃した選手が放つ人間的な輝き、その物語の方が、時として我々の記憶を強く揺さぶることがある。あなたにも、そんな「惜しくも」届かなかった瞬間の残像が、強く心に残っている経験はないだろうか?

本コラムでは、そんな「あと一歩」の象徴ともいえる、MVP(最優秀選手)投票における「2位」という結果に光を当てる。それは単なる敗北の記録ではない。シーズンを豊かに彩り、勝者と同じ、あるいはそれ以上の存在感を放った「もう一人の主役」の物語なのである。


勝利の女神が微笑まなかった「Almost」の輝き

なぜ、私たちは「あと一歩」の物語にこれほど惹かれるのだろうか。

それは、野球というスポーツが、圧倒的な「成功」の裏側に、数え切れないほどの「失敗」と「挫折」を抱えているからではないだろうか。打率3割の選手でさえ、残りの7割はアウトになっている。完璧な記録を残すことは不可能であり、だからこそ、頂点に肉薄した者たちの苦闘と努力は、私たちの日常に重なり、より強い共感を呼ぶ。

MVP投票の「2位」。この数字は、選手がシーズンを通して見せた卓越したパフォーマンスを証明しつつも、同時に、歴史の記録に「勝者」として名を刻む権利を、わずか数票差で逃したという残酷な現実を突きつける。勝者の影に立つ「準MVP」は、敗者ではなく、もう一人の主役だ。その「Almost(もう少しで)」の積み重ねこそが、野球の物語を豊かにしているのだ。


MVP投票の舞台裏――「数字」と「印象」が交錯するドラマ

MVPがどのように選ばれるか、その舞台裏を少し覗いてみよう。評価の土台となるのは、打率、本塁打、打点、あるいは勝利数、防御率といった客観的な「数字」だ。選手が一年間積み上げてきた確かな実績は、議論の余地なく評価の根幹をなす。

しかし、MVP投票は単なる数字の比較で終わるものではない。そこには、投票する記者たちの心を動かすもう一つの要素、「印象」が大きく介在する。チームをプレーオフに導いたかという貢献度、シーズンを象徴するような記憶に残るプレー、あるいは逆境を乗り越えたドラマ。こうした目に見えない価値が、時に数字の優劣を覆し、結果を大きく左右するのだ。

この「数字」という客観的事実と、「印象」という主観的な評価のギャップこそが、MVP投票を予測不可能なドラマに変える。そして、この交錯の中から、「あと一歩」で栄冠を逃す、悲しくも美しい物語の主役が生まれるのである。

2025年ナ・リーグMVP投票:完璧な勝者と、恐れられた挑戦者

その象徴的な事例が、2025年のナショナル・リーグMVP投票だった。

まず、勝者として選ばれたのは、誰もが納得する完璧な存在だった。

  • 受賞: 大谷翔平(満票:30票420ポイント
  • 成績: 打率.28255本塁打、投手として防御率2.87

投打にわたり歴史的なパフォーマンスを見せた大谷の満票受賞は、まさに必然の結果と言える。しかし、その影には、全く異なるタイプの輝きを放った挑戦者がいた。2位票23票を集めたフィリーズのカイル・シュワーバーだ。(3位にはフアン・ソトが続いた。)

  • 2位: カイル・シュワーバー260ポイント、2位票23票
  • 成績: 打率.24056本塁打(本塁打王)、三振数リーグ2位、四球数リーグ3位

シュワーバーの成績は、一見すると極端だ。低い打率と多い三振数は、彼を「偏った打者」と見なす十分な理由になるだろう。だが、グラウンドで彼と対峙した者たちの評価は全く違った。対戦した投手たちは口を揃えて、彼を「最も恐怖を感じた打者」と評したのだ。

その評価は、数字の裏付けを伴う。リーグ3位の四球数は、投手陣がいかに彼との勝負を避け、歩かせたかを示す証拠だ。そして、甘い球を見逃さない。ストライクゾーン中央に来た球に対する長打率は.901メジャー3位の数値を記録。それは、ひとたび失投すれば即座に致命傷を負わされるという、投手にとっての悪夢をスタッツで証明している。彼の打席は、記録上の数字には表れない、ゲームの流れを一変させる「脅威」そのものだった。


もう一つの真実―—選手たちが選んだ「実質MVP」

そして、この記事の核心となる驚くべき事実が、このシーズンの評価をさらに興味深いものにする。

公式の記者投票では大谷が満票でMVPに輝いた一方で、選手たちが互いを選び合う「選手間投票」では、カイル・シュワーバーが最優秀野手に選出されたのだ。

この事実は何を意味するのか。それは、記者席から見る「記録上の完璧さ」と、ダグアウトから見る「肌で感じる脅威」との間に、明確なギャップが存在したことを示している。共に戦う現場の選手たちが、シュワーバーの貢献度とインパクトを、数字だけでは測れない特別な価値として高く評価していた証拠に他ならない。

マウンドから60フィート6インチ(約18.44メートル)の距離でその殺気を感じる選手たちにとって、「最も価値ある選手」とは、スプレッドシート上の美しさではなく、勝負所で最も対峙したくない打者のことだったのかもしれない。

公式記録と現場の評価との間に存在するこのギャップこそ、MVP投票2位という結果の裏に隠された、もう一つの真実を雄弁に物語っている。

「記録」の一本と、「記憶」の一打

シュワーバーのシーズンを象徴するプレーがある。9月、ポストシーズン進出をかけた熾烈な争いの最中に行われたブレーブス戦。試合終盤、彼は劇的な逆転3ランホームランを放った。

公式記録を見れば、この一打は彼のシーズン56本塁打のうちの、単なる「1本の本塁打」として処理される。しかし、あの試合を見ていた者にとって、その価値は全く異なる。あの一振りは、フィリーズをポストシーズン進出へと大きく引き寄せた、まさにシーズンそのものを変えた一打だった。

それは「記録」に残る一本であると同時に、ファンの心に永遠に刻まれる「記憶」の一打となった。数字だけでは決して語り尽くせない価値が、そこには確かに存在したのだ。野球の醍醐味は、まさにこの瞬間に凝縮されているのではないだろうか。


「Almost」が残す、人間的な余韻

MVP投票で2位に終わった選手は、決して敗者ではない。彼らは、勝者とは異なる形でシーズンを象徴し、ファンに強烈な印象を残した「もう一人の主役」なのである。

彼らの物語は、私たちに教えてくれる。それは、最高の結果だけが価値を持つのではなく、最高の結果を目指して懸命に戦った過程、そして「あと一歩」届かなかったという事実がもたらす余韻こそが、人間の物語に深みを与えるということだ。

「Almost」届かなかったという事実がもたらす余韻。それこそが、選手の物語に人間的な深みを与え、記録だけでは測れない野球というスポーツの魅力を、より豊かなものにしているのではないだろうか。勝者が歴史を作る一方で、人々の心に残り続ける物語を紡ぐのは、時として勝者の影に立つ者たちなのかもしれない。

最後に、あなたに問いかけたい。あなたが今シーズンを振り返る時、心に深く残っているのは「記録」の選手だろうか、それとも「記憶」の選手だろうか?

その答えの中にこそ、あなたが真に惹かれる野球の奥深さが隠されていると、私には思えるのだ。

Kyle Schwarber | 2025 Highlights🚨

©MLB / YouTube公式チャンネルより引用。動画の著作権はMLBおよび配信元に帰属します。

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